山が好きで、穂高に何度か行くようになれば必ず名前は聞くしその姿を見ればいつかはあのてっぺんに登りたいと思うジャンダルム。でもその頂は奥穂高岳から西穂高岳の稜線上の一ピークに過ぎず、他にも馬の背、ロバの耳、逆層スラブ、間ノ岳と難所尽くしの稜線で名実ともに国内最難の一般ルートだ。
山登りを始めて7年。南八つや中央アの宝剣の岩場でビビッていた頃から少しづつアルプスの一般ルートの難所を歩いてきましたが、最後に残ったのはやはり北ア最強のデンジャラスルートである奥穂高~西穂高。
今年はジャンダルムを越えることを目標にアルプスの山登りは全て穂高に集中させることにし前回槍穂縦走で完成かと思っていたけど無念のリタイアをしてしまいました。 当初これで今年の穂高は終わりかなとあきらめて他の山に行く計画を立てていましたが、今年ジャンダルムに登ると決めた目標がどうしても頭から離れず、急遽計画変更して1泊2日で行くことにしました。
夕食後自宅を出発し、新穂高の無料駐車場に12時に到着。すぐシュラフに包まり4時に起床して5時に出発しました。新穂高の登山指導センターは前回と同じく誰もいない。
暗闇の林道とショートカットの道を歩いて穂高平小屋に着くとようやく明るくなった。
白出沢の登山道に入りしばらく樹林帯を緩く登ると穂高の岩壁が見えてきた。岩肌の樹木も紅葉が始まっている。
重太郎橋で本日はじめての登山者と出会う。健脚そうな女性の単独者。にぎやかな信州方面でなくこちらに降りるなんて中々玄人?
前回下る時怖かった岩切道も登りに使えば問題なくクリア。お次の樹林帯の急登も下りよりも足場が見えやすく意外と楽にクリアし荷次小屋跡に到着した。これからが白出沢のメインであるガレ場の登りだ。
前回でルートのトレースは大体出来ているので歩きやすいところを順調に登り高度を上げる。後方の笠ヶ岳も同じ標高に近づいてきた。
白出沢はガレ場が左にカーブしたあたりから穂高岳山荘が見えてくるが、ここからがなかなか近づかない。でもペンキマークを忠実にたどれば段差もきつくなく安定していて見た目ほどきつくない。
上を見ると近づかないストレスが溜まるので見ないように淡々と登っていたら11時に白出のコル(穂高岳山荘)に到着。新穂高からコースタイム9時間が休憩入れて6時間でついたから、まあまあのペースでつきました。白出沢の登りは気持ちよく高度が稼げるし短時間で穂高の稜線までこれるのでお勧めです。
今シーズンこれが3回目の訪問となる穂高岳山荘。先々週の陽気とは打って変わって風がきつくとても寒いのでテラスも人が少ない。
涸沢の紅葉はどうかなと下をのぞいたがまだまだだった。10月前半が最盛期かな?
天気がよければ涸沢岳でも散歩に行こうかと思ったけど、風のきつさにあきらめて小屋で本見たりして5時の夕食の時間までダラダラすごしてしまった。大きな小屋だから期待していなかった食事ですが、きちんとした手作りでボリュームも味もかなり良かったです。久々に小屋食で小屋どまりは落チンでいいなぁと実感しました。天気予報を確認すると明日は晴れだが気圧の移動で稜線は風がきつくなりそうだ。リベンジのためここに来たのだから今回はうまくいきますようにと願いながら8時に寝床に着きました。
朝4時に起床し外にでると昨日以上に酷い風。でも天気は晴れているので今回は気合を入れて6時に小屋を出発。フリースに雨具といつも以上に着込んでいるけど体幹温度はかなり低く鼻水すすりながらハシゴ場を越えて緩い稜線の道へ。それと前回の教訓からヘルメット持ってきたのでこれが意外と暖かかった。振り返れば先々週歩いた槍からの縦走路が見えてきた。
笠ヶ岳も良く見える。この光景も今シーズン良く見たな。
淡々と歩いて思ったより早く奥穂の山頂に到着。風が酷いし、ここは今日の通過点に過ぎないのだから長居はせずに立ち去る。ハーネス取り付けていたガイドさんとクライアントさんの5名がいたがこの人たちも様相からすると西穂に向かうのだろう。一人じゃなくて少し安心。
ガイド一向に先にいってもらってお手本にしようと思ってたけどロープをつなぐのに手間取ってたので寒いから先にいく。奥穂からまずジャンダルムに進むとすぐ稜線は激細になる。横にトラバースできるような道のようなものが見えるが、ルートは稜線上を歩く。風に飛ばされないように体勢を低くして用心しながら馬の背の先端まで進みます。
まずは本日最初にして一番デンジャラスなポイントの馬の背を下る。正直これは馬ではなく恐竜の背中だろうといいたくなるくらい凄いナイフリッジ。ホールドやスタンスはしっかりあるので通過自体は難しいことはないと思うけど、何せ両側が1500mくらい切れ落ちていておまけにものすごい強風。一箇所岳沢側のスタンスに足を置くところが幅10cmくらいしかなくて真剣に怖かった。何とか無事に通過して下から見たら、これは登りなら難しくないけど下りは激ヤバだなとシミジミ思いました。
馬の背をクリアしてすぐに岩屑の平らなピークにつく。ジャンダルムが少し近づいてきました。
展望台からグズグズの斜面を急降下して最低コルに降りる箇所も若干いやらしかったがまだ序の口かな。お次の難所であるロバの耳は飛騨側のほぼ垂直に近い岩壁を登る。遠目で見ると確保なしでこんなところを登るのかと面食らうが、取り付いてみるとホールドやスタンスが豊富にありフリークライミングの真似事を楽しみながら面白いように登れました。
ロバの耳への登りは二段になっており最初の登りが終わると20mくらい岩壁をトラバースする。ここも見た目ほど怖くなく安定したトラバース道を進む。でも足元は1500mは切れ落ちてます。
ロバの耳二段目の登りもまるでアルパインクライミングをやっているかの錯覚を起こすような爽快な岩登り。上を進むガイド一行のロープ処理が危ない感じで冷や冷やしてみてました。
ロバの耳はピークは踏まずに飛騨側のルンゼを降りてジャンダルムとのコルに出る。眼下に見える上高地が高度感をかもし出している。
いよいよジャンダルムの下にやってきましたが、ここで先行しているガイド一行がペンキマークに従わずに進もうとしている(画像を見たらその様子が分かると思います)。おかしいなと思っていたら案の定引き返してきました。ガイドさんが道間違いしたらだめだろう。
まずはジャンダルムの信州側をトラバース。ここはクサリはないが手元のホールドは沢山ありしっかりしているので、ネットなどの情報ほど難しくはなかった。
いったん稜線に出て西穂側から飛騨側に巻くようにジャンダルムに登る。ここもペンキ印がしっかりあるので迷うことはないと思う。西穂側のジャンダルムは反対側の威圧的な迫力はなく、もこっとした岩の丘で足だけで簡単に登れる。奥穂側からも登れるが、クライミングの要素が強く確保無しでは危ないと思う。
取り付きから5分くらいでジャンダルム頂上に到着。念願のこのピークの上に立てて無茶苦茶感動してます。
ジャンダルムから見た槍~奥穂のパノラマ。クリックで大きい画像が見れます。
ガイドご一行も皆感激している。その向こうに南アが良く見える
まだまだ風がきついのでのんびり出来ず次に進む。西穂への稜線はまだまだ始まったばかりのようだ。
ジャンダルムを後にしコブ尾根の頭、畳岩尾根の頭とピークを二つ越えるが畳岩尾根の頭の先でガイド一行がとんでもないナイフリッジの先に行こうとしている。確かに進んでいる方向は稜線上だが、その手前で飛騨側に巻きながら降りるようにペンキ印がついている。様子を見ていたら案の定引き返してきた。う~んこのガイドさん本当に大丈夫か?
畳岩尾根の頭からは中間地点である天狗のコルへ岩塊の斜面や急な岩稜、画像のルンゼを急降下する。この区間は歩きやすい区間もありこのルートの中では比較的易しいポイントだと思う。
このルートで唯一岳沢にエスケープできるルートがある天狗のコルに到着。岳沢側を見ようとしたらお手洗いにいっている人がいるといわれたので、休憩せずに進む。ここでも風による寒さで長居は出来そうになかった。
天狗のコルから天狗岩の頭への登りは最初の岩場がハング気味になっており仕方なくクサリで力ずくで登る。逆から来る人はここは大変だろうなと思った。
天狗岩の頭までは中盤以降の最大の登りで途中2箇所岩登りをするところがあるが、別に難しいところはない。振り返ると畳岩尾根の頭が大きくそびえている。あそこから下ったなんてすごいなあと自分のことながらビックリしてしまう
標識のある天狗岩の頭に到着。その向こうに西穂がかなり近く見えてきた
天狗岩の頭から間天のコルへの下りはこのルートで有名な難所逆層スラブ。このスラブに取り付くまでが岩場のトラバースや岩稜を下ったりで以外に厳しい。肝心の逆層スラブの下りは真新しいステンレスの鎖を使って懸垂下降のように降りればフリクションも良く利いて気持ちよくあっという間に降りれました。
間天のコルから間ノ岳に登り返す途中で逆層スラブを見ると結構険しそうに見えます。
間ノ岳へののぼりのルートを見るとこれまた厳しそうな様相だ。でも近づいて実際に歩いてみると気持ちよく岩登りできたりしてそう困難さは感じない。こういうルートは怖がらずに岩を楽しむことで安全性も生まれると思う。
間ノ岳直下の岩登りはチムニー状の垂直な15mくらいの登りだがここもクサリは使わずホールドを確かめながら両手両足で登る。
間ノ岳頂上はとても狭く、岩に名前が書いてあるだけで気づかずに通過してしまう人もいると思う。
間ノ岳からは西穂がまた一段と近く見える。もうすぐで難間ルートも終わり?
間ノ岳からの下りはこのルートで最大の浮石地帯。乱暴に歩くと自分も危ないし、落石の危険も大きい。
信州側にトラバースする箇所も情報では危ないといっていたが、クサリもしっかりしていて問題はなかった。
まだまだこんな登りがあるのがこのルートの面白いところ?
これが西穂だ~と登るたびに騙されるパターンが続きようやくホントの西穂が目の前に。
西穂沢を見下ろす。紅葉もぼちぼち始まっている。
この痩せ尾根を登ると西穂頂上。
やりました~西穂頂上に到着。時間は10時で穂高岳山荘を出てからここまで休憩入れて4時間。到着した喜びと終わってしまった寂しさと複雑な気持ちだけどやはりうれしいです。頂上では道中一緒だったソロの男性2人、西穂山荘でテント張ってここまで来たソロの女性、後から来たガイドさんご一行と談笑しました。朝あれだけ寒かったのに西穂山頂あたりでようやく風も落ち着き暑くなってきた。
頂上でマッタリ休憩した後は再び下山開始。今までよりは優しくなるけどそれでも西穂から独標までは13のピークを越える難所が続くので慎重に下る。
独標を過ぎれば危ないところはなくなりのんびりした稜線歩き。丸山周辺の山肌も色づき始めている。
西穂山荘に12時に到着。冷たいものが欲しかったので迷わずソフトクリームを注文する。のんびりした後はロープウェイの駅に向けて出発。小屋の裏からはいつものように白山が見えている。
山荘からはダッシュで下り20分でロープウェイ駅に到着。1時15分のロープウェイに乗って無事下山しました。
下についたら山岳指導センターに下山届けを提出して駐車場にもどり、平湯の森で汗流してのんびり下道で帰宅でした。
このコースは全体的に岩の上でのバランス感覚と脚力が必要ですが、それ以上に初歩的なクライミング技術はあったほうがいいと思います(岩登りが楽しめないとこのコースは危ないし面白くないでしょう)。
フリークライミングが好きな人なら楽しんで登れるところが多いです。落石の危険も多いのでヘルメット持参の方がいいでしょう(自分は被りました)。穂高の稜線は残念ながら技術とマナーが整った人ばかりが歩いてるわけではありませんからいつ頭上に石を落としてくるか分かりません。ベテラン、初級者に関係なく被るのが当たり前だと思います。また被っていると奥穗からですか?と声かけられるので気分いいですよ(笑)
ルートは思っていたより明瞭で、ペンキ印も少ないながら要所要所できちんとありました。印を的確に探していけば絶対的に無理だという箇所はなかったと思います(ただガスが濃い時は要注意です)。
出会った人はほとんどベテランかガイドとクライアントのチームで穂高の他のエリアに比べて冷やかしの人は流石にいませんでした。
終わってみてこのルートの感想は確かに厳しい箇所が沢山ありますが、やはりバリエーションルートではなく一般ルートの範疇で、きちんと整備されている印象をうけました。それにクサリなど補助するものも最小限なのが逆に刺激的で面白さを倍増しています。奥穗からのほうが下り調子で難所が登りになるので多少楽ですが、馬の背の下りが最初にくるのがきついかな? どちらにしろとても面白いルートなのでまだまだこれからもおとづれたいです。
今シーズンは穂高にこだわり続けましたが、何とか槍穂稜線完全制覇できてよかったです。これで今年の北アは終わりかな?